新たな技術又は製品の研究開発過程で、従来の課題を解決する発明が生まれることがあります。こうした発明について特許出願をして審査を経ることで、特許権を取得することができ、研究開発投資の成果から得られる利益の維持・向上を図ることができます。特許出願の対象である発明について審査を通過できるか否かは、出願時において、その発明が新しいか否かに大きく左右されます。新しいか否かは、これに限定されるものではないのですが、先行する特許出願に記載された技術との対比によって主に行われることから、先行特許調査を行うことが多くの場合になされており、このような調査は「出願前調査」と呼ばれます。しかしながら、こうした調査の負担は小さいものではなく、大企業は多大なコストを割いてこれを行っており、コストをかけることの困難な企業はこれを十分に行うことができておりません。生成AI(generative AI)を用いて出願前調査の省力化を図ることができれば、こうした状況も変わります。この記事では、生成AIを用いた出願前調査のための検索式作成の手法を紹介します。特許データベースは、特許庁が提供するJ-PlatPatを使用します。「特許・実用新案」のメニューから「特許・実用新案検索」を選択し、デフォルトでは「選択入力」となっていますので「論理式入力」を選んで、論理式を入力可能な画面に切り替えてください。生成AIは、OpenAIが提供するChatGPTを用います。この論理式の欄に入力可能な検索式を生成AIを使って作成できれば、調査負担は下がりますね。その前に一点、注意です。ChatGPTを提供するOpenAIは、利用規約において、APIを用いて入力・出力された内容("API Content")については自社サービスの開発・改良のために利用しないが、APIを用いずに入力・出力された内容("Non-API Content")について利用することがあると記載をしており*1、ChatGPTを用いた入力・出力はNon-API Contentに該当します。したがって、出願前調査において、これから出願する未公開発明の内容をChatGPTに入力してしまうと問題が生じるおそれがあります。このほかにもOpenAIの定める利用規約には議論を呼ぶものがあるといわれていますので、特に所属組織等の機密情報を入力することにはご注意ください。検索式生成のためのプロンプトは、以下のとおりです。descriptionの欄に出願前調査の対象となる発明について記述し、ChatGPTに入力をすることで、複数の検索式案が得られます。I want to search a patent database to look for inventions related to the description. Please output possible search queries.Follow the db grammar. Use at least one CL and at least one TX in each one of queries. Use + to cover synonyms for all keywords in each one of queries. Keywords need to be in Japanese.### description ###### db grammar ###AND is expressed by "*".OR is expressed by "+".NOT is expressed by "-".By using square brackets [], the logical operation within the brackets is prioritized."x/CL" expresses a search of the term "x" in the claims."x/TX" expresses a search of the term "x" in the entire text. For example, "(a*b)/TX" expresses a search of "a AND b" in the entire text.db grammarの欄でJ-PlatPatで利用可能な論理演算子の表現を伝えることで、生成AIがデータベースの文法に則って検索式を出力することが可能となっています。また、各キーワードの同義語をカバーするよう伝えることで、検索の漏れを抑えています。一例として、株式会社ドワンゴの特許第4734471号(「471特許」)を取り上げます。出願前調査のための検索式生成を目的としていますので未公開発明を取り上げるべきところでありますが、ここでは、説明のための材料としてお許しください。まず、段落0002~0004に記載の発明の背景をdescriptionに記述して*2、プロンプトを入力すると以下の検索式が得られました。どれもそのままコピー&ペーストで使えます。1 (コメント+発言+書き込み)/TX * (動画+テレビ番組+放送)/TX * (表示+閲覧)/TX * (システム+技術)/CL * (掲示板+コメントボード)/TX2 (テレビ番組+放送)/TX * (シーン+画面)/TX * (表示+閲覧)/CL * (コメント+発言)/TX3 (重なり+重複)/TX * (解消+改善)/TX * (システム+技術)/CL * (ユーザ+視聴者)/TX4 (コメント+発言)/TX * (動画+テレビ番組)/TX * (表示システム+コメント表示技術)/CL次に、この発明は、動画上に多数のコメントを表示すると重なってしまい、読みにくくなるという課題を解決するものでありますので(段落0005)、そのような発明を開示する特許出願を包含する母集団を与える検索式を生成された検索式を用いて作成していきます。検索式1をJ-PlatPatの論理式の欄に入力してみると1312件ヒットします。471特許の出願日(優先日)は2006年12月11日ですので、公開日を2006年12月10日以前として再度検索すると432件となります。ここから、若干の試行錯誤となります。"コメント+発言+書き込み"について、これらのいずれも請求項に記載のない特許文献は出願対象の発明との関連性は低いと考えて、TXではなくCLに修正します。そうすると96件に絞られました。"動画+テレビ番組+放送"については、動画の上位概念である映像も加え、同様にTXからCLに修正します。ヒット数は、60件になります。"システム+技術"は発明の特徴とはいえないので削除して、74件です。J-PlatPatでは残念ながら難しいのですが、74件であれば、商用データベースで公開公報又はその抄録を一括でダウンロードして関連性の有無を評価することが許容範囲となります。先行特許調査は、検索の漏れをなくすことを重視すれば、母集団を大きくすることになり、どこまで広げて検索するかはコストとリスクとのバランスです。ここでは、出願前調査の目的に照らし、検索式3の"(重なり+重複)/TX"を"(重なり+重なる+重複)/TX"として追加してさらに母集団を小さくしてみると、21件まで絞られます。471特許の審査経過をみてみると、最終的に特許になっているものの、特開2003-283981を主引例とする進歩性欠如の拒絶理由が通知されており、これは21件にしっかりと含まれていますので、対象発明に近い発明を開示する文献をヒットさせることができています。機密情報に配慮しつつ、出願対象の発明の分野、課題等の概要を記述するだけで、そのまま特許データベースを検索可能な検索式の素案を生成AIに生成させることができており、修正は要するものの、検索式作成の省力化が可能であるとともに、複数の素案を考慮することで最終的な検索式の妥当性の向上も得られます。プロンプトの利用・複製・翻案等は自由ですので、是非試してみてください。注*1 "Terms of use," OpenAI, updated on March 23, 2023*2 段落0004の記載は発明の課題に関しており、課題自体がこれまでにないものである場合には、これも機密情報に当たります。発明は課題とその解決手段でありますので、課題自体にも新しさあるような発明においては、課題を含まずに背景技術のみを記述する・課題を抽象化するなど、機密情報の漏洩に十分にご注意ください。ABOUT AUTHOR(S)Written by Kan Otani Image by DALL-E