特許調査は、これまでの研究開発の状況を把握する上で基礎的な資料となります。特許文献には、その内容に応じた特許分類が付与され、これらの特許分類を必要に応じてキーワードと組み合わせて用いることで、各種の分析がなされています。このような分析によって、たとえば、出願動向調査であったり、出願前調査、無効資料調査又は侵害予防調査のための母集団形成をすることができるものの、個々の特許文献に記載された発明の内容を把握することはできません。そのためには、発明は課題とその解決手段の組み合わせであることから、解決手段が表現された請求項の記載を確認することが直截です。しかしながら、請求項の記載は、抽象度が高く、その記載をみても直ちに発明がいかなる解決手段であるのかを理解することは困難であることが多く、特許文献の記載を詳細に確認することが避けられないのが現実です。生成AI(generative AI)を用いて特許文献に記載された発明の内容把握を容易にすることができれば、こうした状況も変わります。この記事では、生成AIを用いて請求項の要約を生成する手法を紹介します。例として、"SYSTEM AND METHOD FOR PROVIDING AN AUTOMATED VIRTUAL CLOSET"と題する仮想クローゼットに関するメタバース分野における米国特許出願公開第2023/0069541号明細書の請求項1を取り上げます(特許庁データベースJ-PlatPat参照)。生成AIは、OpenAIが提供するGPT-4を用います。1. A computer implemented method for providing an automated virtual closet, the method comprising: configuring a processing unit communicably connected to at least one of a plurality of user devices via at least one server in a communication network, the processing unit operating an Artificial Intelligence based (AI-based) module configured for: receiving authorized access of media information associated with the at least one of the plurality of user devices; accessing the media information to identify and extract fashion data, from the at least one of the plurality of user devices, the fashion data pertaining to a plurality of wearable fashion items associated with corresponding users; configuring the automated virtual closet by creating an inventory of the plurality of wearable fashion items, the inventory being created automatically based on the extracted fashion data; assigning one or more categories to each of the plurality of wearable fashion items for thereby organising the inventory; prioritizing, based on one or more parameters, a set of wearable fashion items from the plurality of wearable fashion items of the inventory; and recommending the prioritized set of wearable fashion items to the respective users via the at least one of the plurality of user devices.請求項の要約生成のためのプロンプトは、以下のとおりです。## claim #### action ##Summarize the claim in two sentences, in Japanese. Start the first sentence with 'The invention is' and provide the basic features of the claimed invention. Provide additional features of the claimed invention in the second sentence.claimの欄に上述した米国特許出願の請求項1をコピーしてGPT-4に入力すると、以下の要約が得られました。この発明は、AIベースのモジュールを使用してユーザーデバイスのメディア情報からファッションアイテムのデータを抽出し、自動的にバーチャルクローゼットを構成するコンピュータ実装方法に関するものです。発明は、抽出されたファッションデータに基づいてアイテムのインベントリを自動的に作成し、各アイテムにカテゴリを割り当て、特定のパラメータに基づいてアイテムのセットを優先順位付けし、それらをユーザーデバイスを通じてユーザーに推薦する機能を含んでいます。請求項の原文を読めば、請求項としての形式であったり、単数・複数の厳密な区別、"a"又は"the"の区別などを捨象して、発明の内容を把握するという目的のためには十分な詳細が比較的平易に表現されていることが分かります。この結果は、OpenAI API GPT-4-1106-previewをプログラムにより呼び出して生成しています。応答が得られるまでに19.35秒*1でしたので、1件20秒で計算すれば、30分強で100件の要約が得られることになります。外国語の複雑なものであれば、特許文献1件に30分程度を要してしまうこともある現状に照らせば、劇的な変化といえます。APIを用いるのではなく、ChatGPTのGUIにプロンプトを入力することでももちろん要約を生成可能で、応答時間は13.63秒*2でした。内容を把握したい特許文献が1つであればChatGPTを用いた方が速いという結果が出ているので、機密情報に配慮しつつ、使い分けるとよいでしょう。このように、最先端の生成AIを用いることで、特許公報を読むことなく、言語の壁も超えて瞬時に請求項の内容を把握することができるようになっており、特許調査の前提が大きく変わります。プロンプトの利用・複製・翻案等は自由ですので、是非試してみてください。注*1 英語出力の場合は8.53秒*2 英語出力の場合は4.14秒ABOUT AUTHOR(S)Written by Kan Otani Image by DALL-E