知財実務は長年にわたり、専門家が膨大な時間を投じて行われてきました。しかし、近年登場した生成AI(generative AI)は、入力されたデータを理解し、新たなコンテンツを出力する能力をもち、人間の労力を代替して、限られた時間をより効率的に配分することを可能にします。これにより、知財実務が多角的に変革される可能性が広がっています。では、具体的に、生成AIにはどのような適用可能性があるでしょうか。下の図は知財の実務家としてその適用範囲を洗い出してみたものです。画像生成・動画生成は、既存の著作物との関係で著作権法上の議論を呼び起こしており、実務を複雑化しているといえますが、契約書の分野では、契約審査・契約書作成を効率化する取り組みがなされています。また、M&A(Mergers & Acquisitions)の際のDD(Due Diligence)においては、膨大な量の書類を短期間で精査して所定の形式のレポートに纏める業務があり、生成AIの適用が試みられています。特許権については、請求項・明細書等の出願書類の生成から他社出願の調査まで、すでに実用的な水準での成果が得られ始めています。紛争の場面において、自社に有利な裁判例を探し出すといった判例法の法域において特に重要となる業務も有望な適用分野です。意匠権は、デザイナーが生み出した意匠のみではなく、そのバリエーションを多面的に権利化することで類似意匠の模倣の抑止が実効的になります。こうした類似意匠を準備することは大きな負担が伴いますが、建築分野等でも試みられているように*1、生成AIの力を借りて多数のバリエーションを生み出すことができれば、実務に大きく影響します。商標権では、先行商標との類否判断を考える際に過去の類似事例を知ることは極めて有益であるものの、労力を要する業務ですので、有望な適用分野となります。また、特にスタートアップの新規事業においては、商標登録すべき商品・役務の指定が容易ではなく、六本木通り特許事務所では、適切な商品・役務の省力化に生成AIを適用しています。法域を問わず、相談業務全般について、顧客への質問であったり、顧客による回答を生成AIを用いて効率化する試みも進んでいくでしょう。生成AIのリスクに配慮しつつ、その力を十分に引き出すことで、専門家がより付加価値の高い業務に時間を配分し、知的財産制度がより有意義に運用される未来がみえてきます。注*1 "生成AIは建築設計をいかに変容するか," AUTODESK, May 24, 2024ABOUT AUTHOR(S)Written by Kan Otani Image by DALL-E